
能 “女郎花(オミナメシ)”
女郎花の花言葉「約束を守る」は、“女郎花(オミナメシ)”という能が由来になっています。
秋の七草の女郎花は“オミナエシ”と読みますが、能では“オミナメシ”と読みます。
どのようなお話なのか、わかりやすく噛み砕いて説明していきます。
女郎花の登場人物
ワキ:九州から京都に旅をする僧(お坊さん)
前シテ:老人
後シテ:小野頼風
ツレ:小野頼風の妻
能の言葉
ワキとは脇役のこと。主人公(シテ)と会話をして物語を進めていく。
シテとは主人公のこと。前半の主役を「前シテ」、後半の主役を「後シテ」という。
ツレとは主人公(シテ)や脇役(ワキ)に連れられて登場する人物のこと。
女郎花の舞台となっている場所
男山(京都)
現在の京都府にある山(八幡市付近)
山の上には石清水八幡宮がある
石清水八幡宮(いわしみずはちまんぐう)
京都にある神社 日本三大八幡宮の一つ
男山の上にある
女郎花のあらすじ:起
ワキ(旅をしているお坊さん)が京都の男山を訪れると、そこには女郎花(おみなえし)が咲き乱れており、とても美しかった。
あまりに美しいので土産に一本折ろうとすると、前シテ(老人)に話しかけられ、それを止められる。
「その花を折ってはいけない。
それは夫婦の変わらぬ愛を契る(約束する)花だ。
ましてこれは男山に咲く女郎花。
手で折り取ることはダメなのです。
古歌でも“我が手で折り取ってしまえば花が穢(けが)れる”
といわれているだろう。」
ワキは言い返します。
「“その名前を愛らしく思って折っただけなのだオミナエシよ”と歌っている古歌もありますよ。」
ここから女郎花をめぐり二人の言い争いが始まりました。
ただの言い争いではなく、古歌を引きながらお互いを論破していきます。
数分後・・・
「おぬしはこの地にちなむ古歌をよく知っておるな。それに免じて、一つ摘み取ることを許そう。」
言い争いの末、ワキが古歌についてあまりにも詳しかったので前シテは特別に女郎花を摘み取ることを許しました。
そして、ワキは前シテに石清水八幡宮(山の上にある神社)に案内されます。
女郎花のあらすじ:承
その日の男山は放生会(秋の実りに感謝するお祭り)で賑わっていた。
男山のふもとを流れる放生川(ほうじょうがわ)には、放生会で放された魚たちが悠々と泳ぎまわっている。
月の澄んだ光が男山を照らし、山々の紅葉も美しく照り映える。それはまさに神の聖域であった。
参拝が終わる頃にはもう夕方。
参拝を終えたのち、前シテ(老人)はワキを、山のふもとにある男塚・女塚(土を小高く盛った墓)へと案内する。
「“男山の女郎花”は
この塚(墓)に伝わる昔話だ。
この二つの塚には
とある夫婦が埋められている。
女は都(人が集まる場所)に住んでいる人、
男はこの男山にすむ“小野頼風”という者だ。
この話をするのは
なるべく控えるようにしているが、
せっかくお坊さんに出会えた
この機会に頼みがある。
是非ともこの二人の冥福を祈って欲しい。
実はこのように話す私こそ…」
そう語ると、前シテ(老人)は夢のように消えてしまった。
さっきの老人は小野頼風の霊ではないかと思ったワキは、冥福を祈るためここに留まることにした。
女郎花のあらすじ:転
その夜、ワキが言われた通り冥福を祈っていると、そこに小野頼風(後シテ)とその妻(ツレ)の夫婦の霊が現れた。
「私たちこそが女郎花の夫婦です。冥福を祈って頂き本当にありがたい…」
妻は、その昔の出来事を語り始める。
「都に住んでいた私は
頼風と契り(夫婦になる約束)を
交わしていましたが、
頼風が私のところに来てくれなくなったのを
心変わり(愛情が他の人に移ってしまった)と
思い込み、都をさまよい出て
この放生川に身を投げて自殺したのです…。」
頼風が続けます。
「それを聞いた私はとても驚いた。
急いで駆けつけたが、そこには
冷たくなった彼女の姿があった。
私は涙を流しながら亡骸を取り上げて
この山の麓(ふもと)に埋葬したら、
その墓に一輪の女郎花が咲いた。
私はその花を
妻の生まれ変わりだと思い心が惹かれた。
とても恋しく思い近づこうとすると、
その花は私を避けるように風になびいたのだ。
“私を避ける女郎花の花”を見たとき、
私は亡くなった彼女の無念を悟った。
彼女が川に身を投げて
自殺してしまったのは私のせいだ。
そこで私は彼女の後を追うように、
同じくこの川に身を投げて自殺したのです…。」
こうして、妻の墓は女塚、頼風の墓は男塚と呼ばれたのであった。
女郎花のあらすじ:結
「恋の妄執(迷った心で物事に深く執着すること)で死んだ私は、地獄に落ちて苦しむことになった。どうか冥福を祈ってほしい。助けてくれ。」
頼風は、恋の妄執ゆえに死後地獄に堕ちたことを話し、ワキに救済を願うと消えていった。
まとめ
小野頼風とその妻の悲しい物語。
この二人の契り(約束)が由来となって「約束を守る」が女郎花の花言葉になりました。